びく

ビクといえば、腰に提げる竹かごが思い浮かぶ。提げ紐が取り付くあたりがくびれているのはその固定にも都合がよいし、内容物の収まりにも好都合だろう。しかしそんなものをビクとよぶ日常生活は私にはなくて、ビクといえば天秤棒で担ぐ藁製の写真のもの。
自力で解体した二階屋から日の目をみた物々の一つ。この妙にすらっと姿のよいのは、重いものを運んで痛んだ形跡がない。復員した翌々年、姉が生まれて二年後私がさらに三年後弟が生まれて姉弟を形成させたまだ若い父が、これを編んでいる姿を覚えているような気がする。
前掲のビク集合写真のほかは、祖父の手によるのではなかろうか。病みがちの母の民間治療法として、その球根を使うとかで彼岸花の根を堀りに行かされた記憶があるという私が「戦争を知らない子どもたち」の世代だとは。
花は地中より突如たちあがる。やがて野水仙にしては細くそして中央に筋のある少し反り返った葉だけになるころには、それが彼岸花とは気付かないのだ。ビクを引きずって土手をさ迷う子。

稲刈り機がわが家にもやってきてその結束紐の麻の半端な余りが、このビクを父が編む動機となったかもしれない。であれば、一九七〇年以降のことか。