ちはや書店

先年……と正直にかくから、しばらく前のとっときの話なんだろう。人柄が知れる櫻井は、国際通りから泊港まで歩いて行き止まり、歩みを曲げてさらに満ち引きする運河を跨いださきにちはや書房をかまえている。

一筋裏の本屋と二軒、ごった返す賑わいからはるか離れて歩いていったものだ。

ここと映画館の桜坂の二ヶ所で久しぶりにCOMを見て、自作掲載号を回収しておこうかと、一昨日までの二年間那覇にいてしばしば思った。

水木しげるは幼児体験に属するものでただすことはできない、それが証拠に私は再録雑誌コンビニ版の「キカイダー」をちはやで買った。
ハカイダー」だったかな? 曖昧なのは自分の幼児体験に属していないから。
壷川のマンションの10Fを何ヵ月かだけ借りていて、自炊と縁のない夜じっくり石森を見てみようと思っただけのこと。

時間はあったがけっきょく読みきれず、捨ててしまった。
私の蔵書は「不思議な不思議なあのコ」二巻。ケース入りのもの。タイトルは猿飛エッちゃんかも。
どこにしまったか覚えていない。石ノ森名義の仕事は、まったく知らない。
彼が「もっとも私の好きな作品のひとつ」などと評してくれた自作は部分掲載で、ひのめを見ないまま散逸した。泉谷は突然児を残しているかな。

幸福の甘き香り……などガロに描いた一連の大人のペーソスのようなもの以外を楽しんだおぼえはないが、櫻井の古書店としての嗅覚は幼時に備えたと言える。