目下の難題

贈 新築記念
通事安信

と、名入れの掛け時計をギャラリーの見返しの頭上にかかげているのだか、これが私に目下の難題を刻一刻と投げかけておる……刻二刻だったり刻三刻だったりといった具合なんである。?

てな冒頭で始まりそうな感じで、熟したかな四こま漫画の機が……。

私の数少ない一般受けする芸にこれがある。オモエバ高尚な主張や技術でなく、コレニ助けられたことが何度もある。大事にしなくちゃね、四こまの神さま……。四こまの俺さま。

お向かえの家主でなくその隣のバナナカフェの大家さん(二階に住んでる)と、島を空けるとき宜しくとお願いする関係ができてるが「うちより前だった」と仰った。この新築祝いに贈られた時計は
、30年前か40年くらい前のものか。

打ち放しが露出した状態で工事に入った初日、隅にかためられたゴミの山から取り出した。

時計に限らず島にはいろんなものの修理を生業にする人がいて、見事よみがえって再び壁に戻ったのだか「只今の時刻をお知らせしません」。

かってはそうだったような気もする、ムーブメントを動かしているのは単2。

もう一年近くまえで覚えてないが、同じゴミの山のラジオかなんかから取り出した電池を流用するとかして、いや、修理に出した時計屋(亡き息子のと同じタグホイヤーのベルトもデブ用に改造してくれた)がくれたんだったかも。

そうこうして(ここら辺りで3コマ目!)季節はめぐり、刻は一刻から二刻三刻もはや何のために二本の針を回しているのか時計にきいたらワカラナイというだろう。三コマ目終わる。

この中に入れれば単3が単2になります、これにすれば単1として使えます……というアタッチメントがどこかで売っていたが、その使うべきシーンが今だと知った。
要るのは一個、他に単2を使うものも見回せばあるが、残り一個を使うシーンは思い描けないのだ。
新旧混じった使い方がそれがどうした、それか必要になるまで残り一個を転がしておけばいいじゃないか、しゅんじゅんを繰り返しても自分を騙すことは難しい。まさか前述発明小物は買わない。

こうして壁のものは今も休み休み刻を一刻二刻とテキトーに刻んでおる……これが四こま目。収まるか?
一般受けと言ってはみたが、どこが落ちだか。