メリヤス・リボン

デ1・七番、小川茂です。絵の具箱にそう書いていたが、あるとき。二年生の夏休みにやまと絵の小寺礼三が夏季特別講習と称して、造形実習室を連日解放した。

カップ・アイスに氷片を混入させた「みぞれ」が登場した年で、その新鮮な舌触りを求めてひと夏を過した。日本画にも氷果にも飽きると、アトリエの隅でピータイルの上に直に昼寝した。

擦筆のように面を擦りたくて、綿の肌シャツを刻んだりしウェスを側に置いていたK。別編みの襟ぐりを切り離してボクの絵の具箱の持ち手金具に、戯れに結んだことがあった。

可愛らしいリボンでありながら、肌着の襟ぐりをテープ状に切り取ったウェスが素材であるアンバランスがミソだ。ジョークを受けとめて、そのまま残りの学園生活を過ごした。

その間Kもときにはボクの絵の具箱に留まるメリヤス・リボンを目にしただろうが、成り行きに覚えはない。しかし以来半世紀の余にこのリボンが、私の絵の具箱に留まっていたと知ればKも目を丸くするだろう。

結びをテーマにモノ作りの最終局面をむかえて、こんなものをようやく始末してみた。とうに絵の具箱は役目を終えて空、リボンを解かず廃棄の道連れにうち遣る前の記念写真がこれである。