世界のあやとり紀行(INAX)

2006年発行の表紙。演出されているがここから、「漁夫の網と獲物(日本では四段梯子)」を着想した。この現在制作中の我があやとりの着眼点は、完全に閉じた環であやとり紐ができていることだ。接続ポイントにショートスプライスをひとつ設えただけのものだが、世界のどこにもないだろう! ひとつふたつ造った人がいないはずないが、それ以上ではないだろう。
出回っているあやとり紐は組み紐系で、三つ撚り紐ではない。身近かなお母さんがタコ紐や毛糸の余り端を結んでくれた……なんて事は昔に遠のいた。訊ねれば文具店で手に入れた子供ばかり。世界のあやとり研究家やフィールドワーカーが聞き取りや再現に力を注ぐなら南太平洋のあやとりの素材がヨリ紐、さらに言えば三つ撚りの漁網に由来していることを忘れることはできないだろう。

三つ撚りは二本を撚ったものから生まれ出たに違いない。組紐の撚り糸から出来ているが漁具を編むような生産性はなく、身に付けた小さなものが手作りされてきた。精密に編み込んだ継ぎ目のない閉じたリング状の綾とり紐が、太平洋のどこかの島に密かに眠っていないだろうか?

お母さんが渡してくれたタコ紐はゴロリと結び目が邪魔で、結んだ端は撚りがほぐれてボソボソしてくる。買ったあやとり紐にそんな所は見当たらない。組み紐はスッパリとした切断面を、おそらくは高周波接着されて、よく見なければ継ぎ目がどこか分からないほどだ。ポリエステル繊維。

ひとつ買って意地悪いテストをしてみた、左右からどれくらい強く引っ張ったらちぎれるか? たとえば親指中指小指、両手の三本指で「はじめの形」を元気な子が思いっきり「パンパン箒」くらい開いたら……。

ハンモックは四〇年、お絵かき教室は二三年。もう少しで四半世紀だった、スタートは同じくらい。ハンモックを手編みしながら、視界の中にあやとりもなくはなかった。今になって「漁夫の網と獲物(後述)」が生まれたのは、南太平洋があやとりの宝庫だと知ったから。

二〇世紀最大のあやとり研究者(!)H・C・モードは、太平洋の島々を巡って二〇〇〇種ものあやとりを採取したという。「二〇〇〇種のあやとりの手ほどきを受けた……」と言うのがよいだらう。