2017 6/30 満天望 上々

生ビール枝豆セット 590円

二重生活を続けた一〇年ほどのあいだ、出生地にいるときは連日通った銭湯を思い出そうとした。守山の「ぽかぽか」、勝川の『松の湯(だったか?)」。篠木の「満天望」、JRひと駅手前の「春日井温泉」を日替わりのように巡った毎日を過ごしたものだ。

個人史風に言うならこの一〇年を「本宅を仕舞う一〇年」と呼び、その前の二〇世紀末を挟んだ一〇年は「大曽根でのギャラリー・ライクエアの一〇年」となるだろう。本宅は都市近郊に位置したから銭湯はいわゆる健康ランド徘徊が常だったが、ライクエアは尾張名古屋の永き繁栄の一翼を担った下町商店街にあったので、巡るどの湯も前途を絶たれた暖簾の最後に立ち会ってしまった。

メモを見なければ屋号も不確かなそこここ、十指に余る。竹屋の前の鯉のいる湯、市工芸の裏、その北,ゼンヌ幼稚園の縦筋、すずらん通りの二軒……。舞台がハネた仕舞い湯に隈どりのままの旅役者が、暖簾をくぐってきた日もあった。銭湯の風俗は様変わりした。

すでに帰る家もない土地へ戻った一週間は二軒の湯で、かわる代わる生ビールをリサーチ。毎日ではなかったが、満天望、竜泉寺温泉での計四杯はいずれ劣らぬ「上の上々」である。壊滅した町屋の銭湯を踏まえて、苛烈な生存競争を生き抜くスーパー銭湯
生ビールの水位ごときのコンセンサスは朝飯前なのだ。出生地に戻るたびに、これからも通うことになる。