「今日のやぎ」

マンスリー・マンション隣地の畑に、出掛けに目をやる日がはじまった。今日の山羊である。立派な角と顎ヒゲをたくわえた雄、若くはない。目測ニ〇メートル先の観察物まで、庭でもある畑に足を踏み入れることがはばかられる。
うずくまって作業中の人影を見ることもあるが、この距離ではそれなりに大きな声で人や動物を不用意に驚かすことになるだろう。
むしろ玄関にまわって、山羊に近づく旨を話すのがよいだろう……と思ったりする。旅行者のそんな気まぐれにも寛大であるかもしれないが、いずれにしろここにいる間今日の山羊から私は一日がはじまる。

山羊の角の横筋や顎ヒゲの耳たぶのような内容物の感触には、幼い記憶がある。