菊全判のローランド印刷機

競合紙と同額というので二日分で三日掲載という交渉を成立させて、では明日以降の掲載日は紙面都合にまかせるとして帰った翌日のことである。
印刷機が壊れて、その日の「八重山日報」は出なかった。ほぼ毎日コーヒーを飲みにいく喫茶・海坊主のお姉さんに話すと、一年にニ、三度は壊れてるという。

下駄履きアパート(こちらではゴムぞうりマンションと呼ぶとよい) の1Fを美容院と分けた編集部を素通りして、平屋の印刷室に乗り込んでみた。無人の室内には懐かしい空気が流れている。縦置きの製版カメラ、パタンと起きる真空焼き枠に腐食液や現像液を湛える淵で囲われた作業台。
裁ち済みで刷ればよいから、四六全判である必要はなく印刷機は菊全紙判の印刷機がある。もちろんドイツ製の「ローランド」だが、ロゴの脇に張り付いた小箱のふたが明いていて中の電子制御部品がプランとのぞいている。
それは積まれた紙の高さを一定に保ってクワエを安定させたり回転ドラムの圧などを、印刷職人の経験値に頼らず可能にする後付けの装置だ。

それは場数を踏んだ人の目や指先に、先日まで役わられていたことだったのである。