「桑の葉」

登野城に安アパートを借りて、日航八重山ホテルむかいのマンスリーマンションから事務所を移した。兼、住まいである。こうしてゆっくり本拠地を落ち着いて探そうとおもうのだがと、散歩ながら思うのだ。
アパートは裏通りで公園と素人くさいシホンケーキの店に接しているのだが、そこから散歩がはじまる。白保を仕舞った日は少し、遠出した。一区切りついたからである。

初めての角まで来た。相当大きなマンゴーのハウスがある。角に売り地の看板があって、幅員4メートルの私道が牛舎で行き止まっている。一方は立て込んでおり片側は角より、空き地・新築間もない家・整地済・未整地そして牛舎でどんずまりだ。ビニールハウスから人が出てきた。いかにもそうした農地の一部を順番に切り売りしています、といった風情なので声をかけてみた。

新しい家にはそれふうの名前が壁に控えめな意匠ではあるが大描きしてある。中国人の名前だ。大陸との関係は私の感じてきたものとは、ちょっと違うことは分かってきた。マンゴーを育てているTさんは八〇余で、この島で最初の電気屋で儲けてKに果樹園を拓いたが、所有地のこの角に自宅を移して余生を送ると話す。

したがって看板は立ってるが、売りに出したのはあの家が建った区画とその奥。さらにその先の牛舎に接地したところまでの三区画だが、整地済みの区画はすでに売れているんだそうだ。いくらくらいするんだろうな……と、独りごとを言ってみると坪15万円のところ1万まけたのだと教えてくれます。境界杭で囲われた区画は、どれも80坪くらいの感じだ。

看板の立っている私道入口から順に値を下げて、牛舎に至ることになるのだろう。立て込んだ反対側の家の桑が、私道にこぼれている。しぼんで落ちたハイビスカスを添えて、接写してみる。実をつけるころの桑の葉はもっとゴワついたものだが、急速に結実する亜熱帯の桑の葉はしっとりとして摩擦係数が高そうなのだった。