梅と雨

屋敷の隅に忘れられた木が年に一度、自分を振りかえさせる。家屋解体のついでに丸坊主にしてやった梅だが、一年でこれまで枝をのばして実をつけた。行きつけの飲み屋の女将がついでに漬けてやると言うので、一つ残らず摘んだ。小さな金笊の方は、美味しそうな匂いをさせるので念のためと拾っておいた落ちた実。これが軟らかいわたし好みの梅干しになるのサ、と彼女が教えてくれた。知らなかった、棄てないでよかった。夏空のもどる一月も前のことである。

不幸のたびに屋敷の木を、時間に制裁を加えるように斬った父の気持ちが分かるような気がする。生家を引き払うとき、この梅を切るだろうか。バラが固い拳になった(この項別稿)。