*峠のコンビニ

東の海より五穀の種モミが入った壺がその島にもたらされてこの国に広がったと伝説は言う浜を、レンタル自転車でかけずり周っている旅行者に追い越され追い越され歩いた翌日、琉球新報で来春1クール10回のハンモック手編みの講座は室内であるので、打ち上げを兼ねた野外設営のレクチャーは思い切り野趣に富んだシチュエーションがよかろうと、対岸・知念半島の工芸集団の仕事場に峠を越えて歩いてやってきた。毎日20キロは歩いているが宿に荷物を置いてのことで、さいわいだ。

島で立派な三脚を立てたクルーに行き会った。1月15日の「世界ふしぎ発見」をよろしくなんて触れまわっているので井戸で水をくんだかと聞いてみたが、それ何ですか?という反応だった。久高島で私が初めて体験したことがこれだ。離島の井戸・湧水の類を多く見たが、こうして直接手に触れられるところまでその水位が今も保たれていることは稀だ。浸透性の高い地道に大きな水たまりができたほどの雨の翌日であったので、泉はやや濁っていたが一口のんでみた。波しぶきがかかる崖下に真水の湧く井戸の不思議。

さて峠のコンビニで仕入れた弁当をチンしてもらうと、裏手に海の見える休憩ベンチがあるという。黒猫が待ち構えている。食いはぐれることのないよい所を見つけたものだ、いかにも慣れた抑揚でにやとなく。一切れ投げてやるとあろうことか、一べつをくれただけで俺を見返すではないか!

えり好みするほど彼女のメニューは豊富なのか、コンビニの飯をまずくして済まし立ち去ろうとして猫を振りかえるとちょうどがっついたとこだった。猫舌だったのね、私は少し笑い声を洩らしたかもしれない。入れ替わりにベンチにやってきたアベックが私を見た。