ひとマスいくら?

復路神戸港目指して、ふじ丸は航行中である。夜半に、揺れるベッドで目を覚ます。
つきっぱなしのTVは往路復路とも、ビデオチャンネルを除けば何の番組も写さず、船首カメラのモニター映像と点滅する舟形が現在位置を示すチャンネルのみだ。

緯度経度で囲まれたひとマスのその一辺が、何キロ四方であるかわからない。
広い外洋の区切られたささやかなひとマスから夜を徹して、ふじ丸は脱出を試みているのである。

が、そうした報告を取り次いでくれるものはないので、これは事後報告とならざるを得ないのだった。

サロンの隅にいるのだがまだ完成をみないハンモックを携えた方に捕まって、スタッフの部屋ですれ違った誰のステージも見られないまま終りそうだ。

船がもうひとマスくらい乗り切ったころ、デッキ最上階で新しい参加希望者を募って午前午後それぞれ十名と、ハンモックを編む予定がまだ一日残っている。