浅鉢というもの

径は15センチあるが、口台は4・5センチしかない。
4センチしか立ち上がっていないので、皿か鉢かとこ訊かれるともある。
底から少し上ったとこに指を当てると、コトコト収まりが悪い。
正確に言えば芯より2・25センチ以上縁に向かったゾーンのことだか、箸を当てると少し汁物だったりはすると粗相しかねない。

皿だと思えば。


これは浅鉢だと目暗(こう表記しようと思う、視覚障害者をである)の手をテーブルに接して、滑らす手に手を添えたい。沿えたい、もよい。

手のひらを上にしてである。これは陽、返すと「うらめしや」陰のボディランゲージである……なんて怪談噺のマクラに落語家が言っている。

タナゴコロを頂戴のように向けて「うらめしや」と明るく言ってみて、どうもこんな幽霊はいませんナと続けるのだ。

4センチの隙間に苦もなく手は滑り込んで、浅鉢はテーブルを離れる。木の蓋が載っている趣向を、慣れた人にはしてみたい。
顔に近づく目は見えない、蓋を取れの声。
ツマミを持ち上げる。初めて香る。


手頃な浅鉢は、見えずとも倒さず持ち上げられる特性をもっている。



永岡泰則(串原)三島手五寸浅鉢