あるよのできごと

長距離バスの客、クラーク・ゲーブルは「おい、ブランコ乗りという歌を知っているか」と訊く。 オーイェーと楽器を手にした三人組は答える、空飛ぶブランコ乗りが始まる。素人でない。乗客サービスだろうか、乗り合わせただけだろうか。

違った、バイオリン、ギターの間のこちらは正真正銘の乗客という設定の男が唄いだす。「むかし俺は幸せだった……」。

だけど今は不幸のどん底……
この世を恨み 嘆き悲しむ

若い女に 裏切られた
いとしい女を
心から愛して
歓心を買おうと
必死に努力した

ところが強力なライバル出現……
そいつは曲芸のブランコ乗り

いとも軽々 空を飛ぶ
若くて勇敢な曲芸師

見事な芸に
彼女はウットリ

僕の恋人は奪われた


二番を唄うぜと、復員の水兵。「その曲芸師は……」。

獲物を狙うように 女心を溶かし
裸にしてしまう
鼻持ちならない男だが
観客の人気の的 高い所から
客に笑いかけ
俺のあの子に ほほえんだ

彼女は投げキッスして
すっかり有頂天さ
その真上で 彼が宙に舞う


ここまで二番。間奏にまた別の紳士が立ち上がる。


幾週間も 俺は泣いた
あの子はもう サーカスに夢中
俺の頬を涙が伝う
大粒の涙は アラスカの氷のよう
あいつに言った
俺の女に手を出すな

すると野郎はせせら笑って
バカめと鼻であしらう


ここまでのようだ。以下、繰り返しフレーズに「奴に抱かれて、娘は宙を舞う……」。


ハンモックの安全に乗るための手引き「ひるねの栞」の枕に、カイヨワの「遊びと人間」を引用しようと思ってきた。四分類した遊びの一項を「目眩」とする、あれ。

夕べ観たクラークゲーブルの「あるよのできごと」は、私には示唆に富んだ映画だった。
続けて三度、観るムービーは多くない。
二度目はよく知られた歌として描かれた歌が、どんな歌詞を持っているかと。
三度目は、かわいらしいオートジャイロをもう一度見たくて……。子どもたちと初めてキャンプに行った伊良湖で、蝶トンボを見たときはホントに驚いた。

蝶とトンボでない、蝶トンボ。トンボなのに、蝶のようにへらへら飛ぶ。二つの大戦の境、時代背景は複葉機の時代が終わろうとするころ。

オートジャイロは、蝶トンボを思わせる……こう感じるのは私だけだろうか。生家近くの飛行場に飾ってあったオートジャイロ、あれはもう変貌のしようのない完成形だったとは。