やよいとゆきの

卒業式が三日後に迫った土曜の午後、天気予報は芳しくなかった。雨が落ちてくればガジユマルの樹下に吊ってみる試乗は、繰り延べねばならない。思いっきりタイトだわね。

暗くなるまで空はもって、TVリハーサルを意識した試乗は無事すませた。遠景にやよいが、草をはんでいる。事後ご機嫌をうかがいにちかよると、三歳になるやよいは予想以上に小さかった。近くに寄ったの初めて。

しかし地球の表面をむしる音は、驚くほど力強かった。通りかかったアリンコなら、タイサン鳴動におののいたあの朝の悪夢を思い出したろう。

我らはお構いなく明後日のセレモニーに、ハンモック贈呈の一項を加えるべく口裏を合わせながら、やよいの眉間をこすった。先生には内緒。レポータは考えもナシにコドモに、「今の気持ち」をマイクを突き出して訊くだろう。山羊の啼きマネで応えてやるとよい。驚くだろうな。

やよいには小さすぎたクツワ(で、よいか?)を無心した。名前も覚束ないソレの結び方など私が知ろうはずもなくて。それは金剛打ちのクレモナ。三つ打ちの優しい純綿に、替えてやる日がくるだろう。緑陰で編み針を持つ手を忙しく動かしながら口はヒマで、馬や山羊や軍鶏や木登り蜥蜴の様子を詳しく聞き出した。

彼女の口を滑らかにいろいろ啼いてみて、これでよいか尋ねた。いや、やよいはほとんど啼かない。そうか、ぶるるとかばふーか? そう。身近に接した彼女の動物の声色は、だんだんリアリティーのあるものになっていった。 f:id:ogawashigeru:20150321152106j:image