田と畑

 私の月並圃場「藁にはじまる」は一○人程度の参加者に田と水田を貸して農を体験する月並みなプロジェクトだが、立地が茂春サのお宅とその畑に隣接しているので顔を合わせるたびにあれこれうるさく尋ねてきた。農の細目について、こう亡父の手ほどきを受けたことはない。父よりいくらか若いが他人だからこその率直さが振る
舞いにみられると、わがことながら思う。そんなものだろう。
 とはいえ「藁に始まる」初心者に言ってやれることは、そんな茂春サの受け売りばかりでない。例えば……。初春の田お越しの日、畑で挨拶をかわした私は、これはショウゴイン大根ですねとその出来をほめた。
 途端に茂春サは表情を崩して「漬けずに煮よ」と、一本抜いてくれた。なかなか抜けなかったほどの出来映えを賞賛したからでない、大きな蕪の顔したこれが大根だと知る者だと分かったからだ。

 これは応用篇、まずはほめておけばよいなどと。無理しなくてよい、初心者なら田に育つ何を見ても関心するだろう。それを率直に言葉にすれば、一本持ってくか?となる。「藁に始まる」初心者が三年もすれば、そう言いたくなる気持ちも知るにちがいない。