写真は縦。小笠原に三往復して夕べ戻ると、ふと本宅屋敷跡の柿の木が気になった。思いでの痕跡はほぼ、ない。

六〇〇坪の中央に幅12メートルの道をとおして煉瓦を敷きつめて、その両側に宅地を五つづつ造成した。
煉瓦の公開空地といったスペースの取りつきを、丸くくり貫いて移植して枯らしてしまった渋柿である。

根回しもせず重機で、なぜいい加減にしてしまったか。家にはあれほど手間を惜しまなかったのに……と、ささくれた幹をなぜるためだ。


もう暮れ果てていてエンジンをかけたままの車を向けてなければ、若緑りの幼い希望をこすり取ってしまうところだった。ダッシュボードから明かりを取り出して当ててみると枝はどれも下に垂れて枯れたままだが、幹からじかにななつやつ遅い芽吹きが訪れていた。

夜の明けるのが待ち遠しい。が、その足で石垣に向かう。振り返り振り返り飛行機に乗るであろう。さと心である。