トリッペンと焼き印

父が農具に押す焼き印を、こっそり押してみたことがある。七輪で炙ったから小学校前のコドモには辛抱たまらず、躊躇い傷のような不首尾に終わった。

焼き印の押された農具もいくつか島に運び入れたが、焼き印そのものも形見のつもりで手元にある。

よい腐蝕材ができたのかレーザーで掘るとか、かつて鋳造・鍛金の職人技だった焼き印がずいぶんと身近かなものになっている。

島に工房を移した機会に、焼き印を四つ作った。刃物の町・関が身近かに生まれ育ったが、それは見かけなかった。

電子メールでやり取りして顔も知らない人が作ってくれたものは、彫りの深い図版通りのものだった。まずは桐材、革・馬糞紙・塩ビ・不織布がダメならフェルトと節操なく試した。

主たる対象はハンモックの張り棒であるが、打ち抜いた革プレートに押してタグとして使いたいとも。トリッペンの柿渋ロープを結んだ出来に満足して、ごく小さな焼き印をどこに押してやろうかと先ずはトリッペンのマーキングを探した。

靴裏に滑り止め突起がロゴタイプになっていて、ほかのどこにもトリッペンの文字はない。焼き印は革にキズをつける行為だと言われているようで、私は自分の焼き印を押すのを憚った。

少し前だが、無印の革財布に押した焼き印の写真を見せたあれです。靴ひもしごとはある到達点に達した実感を持ったが、中敷きにナンバーリングを入れるに留めた。