比嘉康夫「母たちの神」

写真集・母たちの神はお母さん方にとっての神さまを写したものでなく、お母さんそのものが神さまだという写真集。わざわざ母たちの…と言ったニュアンスを表すとすれば、年に三○回くらいある祭事のときに彼女らが神になった姿をとらえたという意味でしょう。
 
石垣の港から近い島唯一のアーケード街の公設市場二階の隣との壁のない喫茶店に、不思議な写真が飾られているのを見た。初めて沖縄を訪ねた、まだ二年前のことです。
あんみつの氷菓のようなもので旅行者には噂の店のようだか、私にはその変わった写真を見に再三訪ねることになった。「母たちの神」に先だって比嘉には「神々の古層」12巻があって、なかでもその石垣扁は唯一男が神になるものだ。
 
傘にぞうり履き、手拭いで頬かむりに笠を着けて、熱帯植物の葉の蓑まとって長い木の棒を持っている。
なんども諳んじてみたが、とっさにはその祭事の名を言うことができない。
 
神事は真夜中にやって来る豊作を予言する来訪神だ。貧しく歓迎されがたい身なりをしているとされる。夢に出てきたら、それが幼い私でも今の私でも後をついて行ってしまうかと思われるのだった。
おもろ町の定宿から近い美術館で、沖縄 の第一印象を思い出した。
死後一○年を経て編まれた写真集は先の12巻と重なっているが、多くは久高島での神事を押さえている。
そこで知念岬に宿をとって(三泊「海日和」にて)、その島に通った。