続かなかった時間

東シナ海に回り込んで北上しながら列島の背面に抜けず、太平洋に面した海岸を黒潮と共になめていった台風が、風の余韻をいつまでも残した。

夜半、活かされた形跡のない見下ろす高さの隣のビルの屋上を、右往左往するバケツの音がいつまでもしている。

さがった不完全に取りついた蔓がワイパーのように壁を擦った形跡に比べたら、屋上とバケツの接点の自由度は大きい。

フリーであるぶん、時間経過を見いだす痕跡に乏しい。生きる旅とはそうしたものであろうか?


よくも片付けずに逝ってくれたもので、六年たってもまだこんなものに時を止めてしまった。

名刺二つ分より小振りなステンレス板。研いだ形跡がある。ひとつは激しく磨滅、これだけ軟鉄かもしれない。
重ねてみると穴位置は同一。

取り外せる何かの刃を研ぐために、挟んで固定したもの。これ自体に刃が付いてしまっているのは、ついでに砥石にあたってしまったのか?

遺されたものから想像するボク自身を遺したが、その先はないのか……。

私とは、清算を目的としているのか。