今年の巣

タモを背中にさして、稲刈り機を動かした。一条刈りだから稲株列の数だけ田の一辺を往復した。田一枚=1反で歩いた距離は、ええと何キロになる……などと考えているうちは先が見えない。
そのうちゴルフボールとかピンポン玉よりよほど小さいものが、跳んででる。昨年から毛並みのいい飼い猫が味をしめて脅かされているようだが、無肥料・無農薬で年を重ねた田で彼らは世代を更新している。タモですくうことにはまだ成功していないが、今年も巣は田一枚に五、六コは見つけた。
晴天がつづく、刈り倒した稲はそのままで小一週間干してから脱穀器にかけるの昔からの作業手順を踏むようにしている。その間カヤネズミは稲わらの蔭で、腹をふくらせてわが世の「秋」を満喫するだろう。あの猫がこの田に足を向けないかぎり……。

巣には大人の親指では、入らないくらいの入口があいている。田の草とりに入ったときはまだ、稲の葉と同じ青々としたものだった。